2016年4月21日木曜日

この手があった! 「希釈化」ならぬ「濃縮化」




 2016年3月14日の発売以来 (東日本地区)、コンビニエンスストアで売り切れ続出の「ペヨング ソースやきそば」。ロングセラーの本家「ペヤング ソースやきそば」 とは異なる横長のパッケージながら、まったく同じ印象 のカラーリング、似たような名称⋯⋯⋯

 「誤字?」、「商標権侵害?」など、世間の憶測を呼んでいる。実はこれ、本家ペヤングを主力商品とする“まるか食品株式会社”(群馬県伊勢崎市)が発売した商品。

「ペヨング」は、麺の量を14g減らした廉価版で、「気になる本家との味の違いは食べてみてのお楽しみ!」(まるか食品)だそう。2014年の異物混入事件で全面的製造ラインの見直しを行った同社が、満を持して新発売するセカンドライン商品というわけだ。




 本家「ペヤング」は、発売に先立つ2年前に調味料等の区分で商標出願。後に即席そばの麺や野菜ジュースなどの指定商品でも商標を取得している(第1201550号)。 一方の「ペヨング」は、発売直前2015年1124日に出願。ペヨング発売と前後して、似たようなネーミングの「ペユング」も、商標出願していることがわかった。
 さらにあらためて確認してみると、本家「ペヤング」出願の1976年に同時に「ペアング」を出願。現在も商標権を保持していることがわかっている。


ブランド史上初?  商標の濃縮化戦略

 「アレンジを加えることなく、直截にアピールを重ねる」。ブランド戦略の王道である。 この王道を歩むものが気をつけねばならないのが普通名称化。例えば、「うどんすき」は老舗うどん店、美々卯の登録商標だが、東京高裁により普通名称化していると判断された。こうした有名な商標について、他人が様々な商品やサービスに使用することで、その商標としての機能を弱め、普通名称化しようとすることを、「商標の希釈化」という。

 一方、似たようなネーミングの商標を取得するまるか食品のブランド戦略は、この希釈化の逆をいく「濃縮化」戦略というべきであろう。 異物混入事件からの立ち直りをかけたセカンドライン商品の投入。あえて近い商品に近い名称を与える。これにより商標権の効力を濃くしようとする戦略と見る。

 色のついた溶液をシャーレに入れて上から見ても色は薄い。しかし、同じ量の同じ液体を試験管に入れて、上からみれば濃い色に見える。シャーレや試験管は、商品の違い。色のついた液体は商標である。

 商品をわずかの違いで差別化し、似た名称をつけることで信用回復を図る「まるか食品」の戦略を商標の濃縮化戦略と見て応援したい。

特許業務法人プロテックプリント版 ちざいネタ帖 VOL.8 2016/3/31より
 


2016年2月16日火曜日

マーケット変化と商標ライセンス〜明治うがい薬

 インフルエンザなど感染症対策の第一は、うがいと手洗い。発売以来、日本のうがい薬マーケットを牽引してきた「明治 イソジンⓇ うがい薬」が、来る3月末にライセンス解消というニュースが飛び込んできた。
 データベースを確認してみると、イソジンⓇの出願は1960年。出願人は米国系製薬会社のムンディフアルマ社。61年に医療用の殺菌消毒薬として明治製菓(当時)が発売し、83年に市販薬を発売。キャラクター「カバくん」も、85年にはテレビCMに登場し、後に図形商標登録している。つまり、「イソジンⓇ」の名称と「カバくん」は30年以上にわたり、ブランドを育ててきたわけだ。それが2016年4月には、明治は、商標「イソジンⓇ」の名称が消え、「明治うがい薬」の名と「カバくん」マークで独自路線を行く。半世紀以上にわたる関係の解消の背景にあるものは、なんだろうか。





 

 報道によれば、ムンディフアルマ社は、欧米を中心に慢性腰痛やがんに伴う痛みの治療薬を販売してきたが、昨年から日本を重点地域に定め、積極投資。その一貫として、すでに日本市場に浸透しているイソジンⓇブランドを自社展開することを決め、シオノギ製薬が独占販売する。フェミニンケアなど幅広い商品を計画しており、菓子や乳業など多様な食品を提供している明治よりも、製薬やヘルスケア商品に特化したシオノギに乗り換えたということだろう。
 廃棄不徹底がブランドを傷つけかねない状況が頻発している昨今──。明治のイソジン製品が4月以降は市場に流通しないよう、徹底した在庫回収策がとられることが期待される。

高級感がウリでなくなったとき

 商標のライセンス解消といえば、「プランタン銀座」が、仏プランタン社との商号・商標契約を2016年末で終了するというニュースが同じころに届いた。プランタン銀座は、1984年、破竹の勢いだった()ダイエーが、安売りスーパーの別業態として、おしゃれで高級なイメージを獲得して開業。30年余を経た現在は、読売新聞グループの会社が運営し、ニトリやユニクロも出店する商業施設になっている。ダイエーの変遷はもとより、その時代の目論見は継続できず、いまや高級感あふれるフランスの老舗百貨店「プランタン」とのイメージの齟齬は否めない。契約期間の満了とともに更新に至らなかったのもいたしかたないことだろう。2017年春の新装開業後は、主婦や訪日外国人需要を含めた幅広いターゲットに訴求する予定だそうだ。
 歌は世につれ、世は歌につれ⋯⋯⋯⋯。商標やライセンス契約も「世につれ」というわけ。


*プリント版「ちざいネタ帖 VOL.6」(2016/01/25  特許業務法人プロテック発行より)